勝利の女神になりたいのッ!~第1部~
俯き膝の上で握りしめた拳が震えている。
私はお兄ちゃんの震える背中にソッと触れていた。
「お兄ちゃんの名前は?」
「………。」
何も話さなくなったお兄ちゃん。
でも不思議と居心地の悪さは感じなかった。
橋の向こうの人だかりは時間とともに減っている。
あの橋を渡ればお父さんとお母さんに逢える。
そんな思いもどうでもよくなっていた。
自分がどうして独りこの場所に残っているのか、何となく察しはついていた。
橋の向こうは別の世界。
それを眺めている今いる場所は世界と世界の狭間。
ここにに残り私がこれからどうすればいいのかなんて考えることもなく、ただ橋向こうの人が洞窟の入り口に吸い込まれるように消えていく後ろ姿を見送っていた。