勝利の女神になりたいのッ!~第1部~
橋向こうにお父さんの姿が見えた。
駆け寄りたい気持ちは不思議となかった。
お父さんも私とは違う世界に行ってしまうんだと、ただ漠然と思っただけだった。
「お兄ちゃん、向こうにお父さんがいたよ。」
「そうか、紫衣は父上の元へ行きたいか?」
「いいえ、いいの…。
紫衣はお兄ちゃんの側にいるよ。」
「………。」
私の言葉にお兄ちゃんは表情を変えず、また黙り込んでしまった。
ただ時間だけが過ぎていき静かで穏やかな気持ちで座っている。
時間が過ぎていく感覚もなくお腹もすかない、眠くもならない。
この場所は人間の欲というものが生まれてこない不思議な場所だった。
「俺の名前は石田三成。」
突然お兄ちゃんの声が響いて私はビクリと体を震わせた。