平安物語=短編集=【完】
そっと院の背に腕を回すと、院は私の髪を優しく優しく撫でて下さいます。
この長年の恨み辛みが、涙と一緒に流れ出ていくようでした。
その時、
「恐れ入りますが…院におかれましては、もう御帰還あそばさないと騒ぎになります。
お仕度をお願いいたします。」
と声がかけられました。
院は少し体を離して私を見つめ、
「戻るなんて……………できない。」
と仰いました。
御帳台の周りでは、女房が数人、困ったように囁き合っています。