平安物語=短編集=【完】
「…あなた様。」
今までに呼んだことのない呼称で院を呼ぶと、院は驚いたようなお顔をなさり、切なげに私を見つめます。
「もうお戻りなさいませ。
騒ぎになっては困ります。
来てくださって…私は、本当に嬉しゅうございました。」
凛としてそう強く言うと、院は困ったお顔をなさいます。
「……必ず、御所に戻って来ますね?
話したい事がたくさんあります…。」
そう仰る表情がまるで幼子のようなので、私はにっこりと微笑んで
「はい。」
と申し上げました。