平安物語=短編集=【完】
乳母の言葉を聞き流して、ぼんやりと景色を眺めていました。
出家したい、尼になりたいと思いながら、この乳母と義母上様を始めとした大反対に阻まれ、未だ背丈より更に長い髪に甘んじております。
「出家出家と仰らず、結婚など考えてご覧なさいませ。
…確かに不幸な結婚というものもございますが、姫様ほどの女人ならば幸せになれますとも。
父君は故大納言、育ての母君は皇族の御血筋なのですから、御身分も確かでいらっしゃいますし。
六人もの殿方が諦めずに求婚なさっているというのに、それではまるで木石ですわ。」