平安物語=短編集=【完】



寒々とした気分でなおも庭を眺めていると、消息(来訪を知らせること)の声が聞こえてきて、急いで奥に引っ込みました。

すぐに屋敷に迎えたようで、牛車が入って来ます。


――どなたかしら…。


そう思っていると、女房達が

「まあっ中将様だわ。
素敵っ!」

「雨宿りに立ち寄られたそうよ。
何て運が良いのかしら!」

「もう夕暮れだもの、お泊まりになるかもしれないわ!」

と色めき立ちます。


――中将様?

あの、色好みで浮気だと有名な…。

右大臣の御長男なんだもの、女を遊び道具としてしか見ていないのでしょうね。


私の最も嫌悪する種類の人間です。



< 147 / 757 >

この作品のキーワード

この作品をシェア

pagetop