平安物語=短編集=【完】
寒々とした気分でなおも庭を眺めていると、消息(来訪を知らせること)の声が聞こえてきて、急いで奥に引っ込みました。
すぐに屋敷に迎えたようで、牛車が入って来ます。
――どなたかしら…。
そう思っていると、女房達が
「まあっ中将様だわ。
素敵っ!」
「雨宿りに立ち寄られたそうよ。
何て運が良いのかしら!」
「もう夕暮れだもの、お泊まりになるかもしれないわ!」
と色めき立ちます。
――中将様?
あの、色好みで浮気だと有名な…。
右大臣の御長男なんだもの、女を遊び道具としてしか見ていないのでしょうね。
私の最も嫌悪する種類の人間です。