平安物語=短編集=【完】
すぐそこにいる男の存在に心臓がバクバクしながらも、
「お人違いかと存じます。
こちらは開けられませんわ。」
と声を絞り出します。
「………いいえ、そんなはずはありません。
ずっと機会を求めていたのですから。」
さすがに雨の中放置することも出来ず、しかしお入れする気はさらさらありません。
なおもくどくどと言い連ねる中将様にほとほと困ってしまって、
「本当に困ってしまいますわ。
お風邪を召す前にお戻りくださいませ。」
と懇願するのですが、
「何も無体な真似に及ぼうというのではないのです。
ただ、お側に参ってこの想いを申し上げたいだけなのですよ。」
と、平行線を辿るばかりです。