平安物語=短編集=【完】
「もうお戻りなさいませ。
騒ぎになっては困ります。
来てくださって…私は、本当に嬉しゅうございました。」
凛として、強くそう言う。
…美しく、逞しく、切なげに、脆い。
一気に愛情が溢れ出すが、何とか自制心をきかせた。
ここで無理に固執すれば、かえって縁起が悪い。
そう思った私は、
「……必ず、御所に戻って来ますね?
話したい事がたくさんあります…。」
そう、懇願するにとどめた。
すると藤壺は、にっこりと微笑んで
「はい。」
と答えた。
その笑顔は、不吉なくらいに美しかった。