平安物語=短編集=【完】
しぶしぶ重すぎる腰を上げ、帰る。
今にも儚く消えてしまいそうな藤壺を、何度も何度も振り返りながら…
粗末にやつした車に乗り込もうとした時、
「申し上げます!
皇太后さま、たった今お隠れに…」
私は、その者を手荒に押しのけて来た道を引き返した。
ほとんど走って部屋に着いた時、藤壺は帳台に横たわり、女房達が声高に泣き騒ぎ、大勢の僧が息を吹き返させようと祈祷していた。
一瞬立ち尽くした後、駆け寄る。
藤壺の美しい顔には生気がなく、でもその口元には微笑をたたえていた。
「宮……宮…!」
体を抱き上げて揺さぶるも反応が無く、一層泣き声が大きくなった。