平安物語=短編集=【完】
「お久しぶりですね。」
「ええ…はい。」
明らかに困惑したような女御に、心が温かくなった。
「…昨夜、夢枕に亡き皇太后が立たれまして、あなたを見舞うようにと仰いました。
女の子を御懐妊だそうですよ。
本当にめでたいことです。」
そう言って優しく肩を抱くと、女御の目からは涙が溢れていた。
「皇太后さまが…?
私を、無礼で疎ましい者とお思いになって然るべきお方なのに…」
思い苦しんでいたのだろう、女御は私の胸に寄りかかってさめざめと泣いた。
「あなたも辛かったのに、二カ月も放っておいてすみませんでした。
皇太后は、憎むどころか見守ってくれています。
生まれてくる姫も一緒に、幸せになりましょう…」
そっと親指で女御の涙を拭いながら言うと、泣きながらもコクリと頷いた。