平安物語=短編集=【完】
そんな侮った気持ちで、弁の君をお迎えしました。
しかしその弁の君のお側近く参ってきたものは皆、口をつむんであら探しをしません。
私も、お側に参上することがありました。
なるほど、御容貌は華やかで愛嬌がおありで、言動にも品が漂い、いらっしゃるだけで周りの空気がぱっと明るくなるような方です。
私が少し離れた所に控えておりましたら、目を留められて
「こんにちは、お邪魔しております。
何とお呼びしたらよろしいでしょう?」
とお声をかけられました。
その控えめで驕らない態度に驚き、好感を抱きました。
「民部、とお呼びください。」
そう申し上げると、
「そう、民部の君。
よろしくお願いします。」
と、にっこりと微笑まれました。