平安物語=短編集=【完】
しくしくとお泣きになる宮様は本当においたわしくて、まして中宮様はどんなに心苦しく思っていらっしゃることかと思いやられます。
「少納言の乳母の言うことをよくお聞きになって、良い子になさるのですよ。
良い子でいらっしゃれば、またきっとすぐにお会いできます。」
と中宮様があれこれお慰めなさると、
「本当…?」
とお目を潤ませてお母君を見つめます。
中宮様は宮様の頬にお手を添えて、
「ええ、必ず。
だから可愛い笑顔を見せてくださいな。」
と仰いました。
帝にお仕えなさるお妃というのは、帝の御寵愛を争うより、何と言っても始終お子様と一緒にいられないのがお辛いだろうと思われます。
宮様はお袖でごしごしとお目をこすって、赤いお鼻のまま、にっこりと微笑まれました。