平安物語=短編集=【完】
奥にお通ししたものの、しっかりと御几帳を間に挟んでいます。
お久しぶりすぎて、何とお声をかけて良いのか分かりません。
「……長らくのご無沙汰をこのようにお恨みになるのもごもっともですが、本当に深い愛情がおありなら、全て大らかに許してくださいよ。
こんな他人行儀な扱いは、あまりに手厳しいではありませんか。」
ふうと溜め息をつきながら仰るので、
「いえ、そんな。
急なおいででしたので、見苦しい格好をしておりますから…」
と言い訳するも、さっと御几帳が動かされてしまいました。
反射的に袖で顔を隠すのですが、
「どこも見苦しくなんていらっしゃらないではありませんか。
やはり、冷たいお気持ちだったのですね。」
と仰って、物に寄りかかって見つめていらっしゃいます。
私はなんだか可笑しくなってしまって、
「お気まぐれな事ばかり仰って。」
とクスリと笑うと、大臣もフンとお笑いになって、そのままお泊まりになりました。