平安物語=短編集=【完】
確かに、五日ほど前のこと。
一人で端近に出て庭の花々を眺めていたのです。
すると不意に一人の若く美しい殿方がこちらの方にいらっしゃって、花を愛でていらっしゃいました。
なんと風情のある御様子だろうかと眺めていると、朝顔の花を一つお袖に乗せてこちらに寄っていらっしゃいました。
「失礼。
あまりに美しいので、手折ってしまいました。
お許し願えますか?」
そのお言葉は、暗に求愛していらっしゃいました。
私は風流なご冗談だとぼうっと眺めていたのですが、誰もお返事を致しません。
周りを見ると、皆私から少し離れた所に座っています。
この方は、私に言い寄っていらしたのです。