平安物語=短編集=【完】
翌日お見えになった殿に、
「私はもう長くは生きられませんでしょう。
どうか私亡き後、この若君を劣り腹とお蔑みにならず、人並みに殿のお子とお扱いくださいませ。」
と泣く泣く訴えました。
殿は
「どうしてそんな縁起でもないことを言うのですか。
この子は私の一人息子なのですから、当然大切に育てましょう。
北の方も喜んでいます。
あなたも、この子の晴れがましい行く末をご覧にならずにどうするのですか。
出産で死ぬのは罪深いことだと言いますし、もっとお心を強く持って早く回復なさってください。」
と真剣に仰います。
「北のお方がお喜びと伺いまして、安堵いたしました。」
とだけ言って、こぼれる涙をこらえきれずに伏してしまいました。
確かに、この東の対にこんなにお見舞いがいらっしゃって華々しいというのも初めてのことで、私も嬉しいのです。
若君もきちんと認知して頂けましたし、一人息子としてお育て頂けるとの言質も頂けました。
それでも、明日をも知れぬこの体が心細くて仕方ないのです。
私自身の生きたいという願いよりも、若君の将来が心配なのです。