平安物語=短編集=【完】
初めて東宮様とお逢いした時、優しいお顔の奥に、気の毒なという気持ちを隠していらっしゃいました。
だから私は、
「東宮様?」
「…なんです?」
「私を、最初から只のお慰み者とお思いくださいませ。
東宮様が弘徽殿女御様だけを愛していらっしゃるのは存じ上げております。
私は、ただ、お気が向いた時にお情けを頂戴できれば結構でございます。」
と、先手を打ったのです。
そしてそのまま、驚いていらっしゃる東宮様のお手を取って私の襟元に置いて、にっこりと笑いかけました。