平安物語=短編集=【完】



私は東宮様に、言うまでもなく惹かれておりました。

東宮様のお身体だけでなく、お心も、私だけのものに出来れば良いのに…


しかし、東宮様はよく事が済んだ後に、苦しげに月を見上げていらっしゃるのを存じております。

そして、月をご覧になりながら何を想っていらっしゃるのかも分かっているつもりです。

だから、そういう時は決して誘わないのです。

冷たく振り払われるかもしれないという可能性よりも、あのお方のことを想いながら抱かれるのがあまりに虚しくて…

せめて私を抱いている時だけは、私に夢中になっていて頂きたいのです。



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