平安物語=短編集=【完】
ただ気分が悪いとだけ申し上げて、お召しを断ることしか出来ませんでした。
お腹に御子を宿した身で、東宮様を受け入れる訳には参りませんから。
しかしそれがあまりに度重なったので、珍しく父上が訪ねてくださいました。
御几帳だけを間に対面致しますと、実の娘の私でも怯むほど威風堂々としていらっしゃいます。
「この所御気分が優れないと伺いましたが、どこがどうお悪いのですか。
あまり酷いようでしたら、里帰りもなさるのが良いでしょう。」
この父上の前では簡単に嘘をつくこともできず、
「どこがどうというのではありませんで…」
と言い淀んでしまいます。
すると父上はそんな私を怪しんだのか、少し体勢を崩してお座りになる御様子が、本当に背筋が伸びるような威圧感なのです。