平安物語=短編集=【完】
「尚侍!!」
御寝所に入るいなや、東宮様がこちらにいらっしゃいます。
そしてそのまま、ひしと抱き締められました。
今まで何をするのも私からだったので、こんな事は初めてです。
呆然としていると、
「なんで誰より早く私に知らせてくれなかったのですか?
こんなに嬉しいことを独り占めになさるなんて、本当に意地の悪い方ですね。」
と仰ってにっこりと満面の笑みを見せてくださいました。
私は感動してしまって、何とか誤魔化そうとしたのですが不覚にも涙が溢れてしまいました。
東宮様は慌てて
「いや、そんな、冗談ですよ。
本気で意地が悪いだなんて思ってはいませんよ。」
と仰います。
私は吹き出すように笑ってしまいました。
「いいえ、嬉しくて。」
涙を押し拭って笑顔を見せると、
「私も、本当に嬉しいですよ。」
と仰ってくださいました。