平安物語=短編集=【完】
院は気さくな男らしい方で、それでもやはり、そっとお袖で涙を拭いながら姉上の思い出話などなさいます。
私も涙に詰まりながらも、御所を下がってからの姉上の御様子などをお話し致しました。
女房達は、気を遣って席を外しています。
「露よりも儚き命の恋しくて
涙の露の乾かざるかな
(露より儚かったあの人の命が恋しくて、私の涙の露は、逆に乾かないことだ)」
「浮き世なる我が命こそ消ゆべけれ
露の命の惜しければ
(いまもまだ、辛い無常のこの世にいる私の命こそ、消えるべきだったのです。
姉上の儚い命が惜しくて。)」
その日は、しとしとと雨が降っていました。