平安物語=短編集=【完】
***



「全く、父宮は何をお考えなのでしょう。
こちらの姫君をこんなに長い間放っておおきになって、あんまり薄情ではありませんか。
それもこれも、母君の御生前からこちらを憎み嫌っていた北の方が、こちらの姫君までお嫌いになるお心のせいです。
こちらの姫君が、北の方の姫君達よりもうんとお美しいものだから、また嫉妬なさっているのだわ。」

「犬君(イヌキ)、庭の紅葉を一枝手折って来てくれる?」

「はいっ」

「姫様、聞いていらっしゃいますか!?」


もう聞き飽きた乳母の愚痴を無視したので、すかさず注意を受けました。


「落ち着いて頂戴。
こんな綺麗な紅葉を観れば、そんな苛立ちも収まるわよ?」

いつもはしっかりした乳母なのですが、父宮の北の方の話となると人が変わってしまいます。


「ありがとう、犬君。
それを侍従に渡してくれる?」

「はいっ。
どうぞ、侍従様!」

犬君は私が特に可愛がっている女童で、侍従は乳母のことです。


「ありがとうございます…
ええ、確かに美しいですわね。
では気晴らしに紅葉狩りにでも参りましょうか?
お母君の御遺産の、別荘が山の麓にありましたし。」

侍従の一言で、紅葉狩り行きが決定致しました。



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