平安物語=短編集=【完】



一人の背の高い女房が紅葉を一枝手折って姫君に差し出すと、扇を顔から下げて、扇の上に紅葉を受け取った。

「綺麗ね。」

と微笑んだその姫君は、見たことのない美しさだった。

十四・五歳だろうか。

黒目がちな瞳は存在感があるけれど、顔全体の造りが上品で愛らしい。

秋だけど、桜の花が開いたかのようだ。

父帝の妃達も拝見したことがあるが、こんな所にいるこの姫君の方がずっと美しい。

人並み外れてお美しい藤壺中宮にはかなわないけれど、愛嬌のある点ではこちらが勝っているだろう。


そうして心を奪われたように見つめていると、再び姫君は車に上がってしまい、しばらくして三台とも去って行った。


「どちらか、後を追え。」

供の二人に言うと、一人が

「女房の中に、見たことのある顔がいました。
私が参ります。」

と言って、牛車の去った方に駆けて行った。



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