平安物語=短編集=【完】
***



山から降りて、お母様から伝えられた別荘に参りました。

こぢんまりとして粗末ですが、田舎らしい風情があります。


皆くつろいで談笑していると、一人の女童がやって来て

「右近様に、お客様です。」

と言われ、右近と呼ばれる女房が出て行きました。


「こんな所に訪ねていらっしゃるなんて、どなたでしょうね?
右近さんの前のご主人でしょうか。」

「さあ、前の前のご主人かもしれませんよ?」

若い女房がクスクス笑っていると、古株の女房が

「全くあの右近は、軽々しい考え足らずのところがあるから。
こんな所にまで男を来させるなんて浅はかなことだわ。」

と口うるさく非難するのでした。


右近は、華やかで派手な性格なのです。

以前関係があった方の訪れが少し途絶えた時に、早くも他の男と関係を持ったのだとか、嫌でも耳に入ってきます。



< 564 / 757 >

この作品のキーワード

この作品をシェア

pagetop