平安物語=短編集=【完】
夜の闇に紛れて、姫君の別荘にたどり着いた。
私を残して、例の供が先に入って女房に話をつける。
しばらくして出てきた。
「お待たせいたしました。
やっと引き受けてもらえました。
どうぞ、中へ。」
案内されて、女房の局に入る。
「本当に、困ってしまいますわ。」
若い女の声だが、やたら甘ったるい猫なで声でゾッとした。
この件を引き受けてくれたらヨリを戻すとでも、言ったのだろう。
「私はここでお待ちしております。
さ、ご案内いたせ。」
「分かりましたよ。
全く困ったことになったわぁ。
さ、暗いですから、お手を。」
困った困ったと言う割には随分積極的な手引きで、局を出た。