平安物語=短編集=【完】
久しぶりに、どきどきと心臓が早鳴る。
今までの女は皆、簡単に靡くか自ら誘ってくる者ばかりだったので、こんな強引な真似は初めてだ。
それでも、あんな美しい人を見逃したくはない。
きっと受け入れてもらえるだろうという自信もあった。
「ここが、姫様の御座所です。」
「ご苦労。
夜が明ける頃、また迎えに来てくれ。」
スッと忍び込むと、一台の御帳台がある。
音を立てずに忍び寄り御帳台の帳をめくると、小さな女性が背を向けて寝入っている。
素早く入って、かけてあったものの中に滑り込むが、姫君は起きる様子もない。
あどけなく可愛い寝顔を壊すのは心苦しかったが、そっと揺り起こした。