平安物語=短編集=【完】



「宮様…お帰りになるのですか?」

寝ぼけた可愛い人が、既に身支度の整った私を見て寂しそうに言う。

「今日は参内しなくてはいけないのです。
離れがたいけれど…また今夜、なるべく早く参りますからね。」

どんなに宥めすかしても、しゅんとして笑ってくれない。

その気持ちは、もう一度組み敷いてしまいたいくらい愛しい…けれど辛くて出かけられない。


仕方ないので、最後の手段に出た。

「もう出かけなくては…
そうそう、女房達が来る前に何か身に纏った方が良いと思いますよ。
私には素晴らしい目の保養でしたが。」

そう言うと、自分の姿に気付いて首まで真っ赤になりながら掛け物にくるまった。

そんな姿に私が微笑むと、やっと、紅葉の君もはにかんでくれた。


「では、行って参ります。」

「…行ってらっしゃいませ。」



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