平安物語=短編集=【完】
まだ夕暮れにも少し早い頃、紅葉の君を訪ねようとした。
「み、宮様!?」
私に気付いた女房達が驚いて声を上げ、動揺が広がっていく。
誠実な事だと歓迎されても良いくらいなのに、何やら困り顔だな…
すると、気付いた乳母が出て来た。
「よくおいでくださいました。
このようにお早いお出まし、本当に嬉しく存じますが、夜までおいでにならないだろうと油断しておりまして、散らかしっぱなしなのです。
恐れ多くもったいない次第ではございますが、もうしばらくどちらかを散策していらしてはくださいませんか。」
「いや、何も気にしませんよ。
私は紅葉の君にお逢いしたいだけなので、二人で話ができるだけの場所さえあれば。」
本当に本心だったので、「あっ」と声を上げたのを無視してそのまま御簾を捲り上げて入ろうとした。
「何だ…これは。」
散らかしたなんて程度ではない。
衣類が辺りに散乱し、几帳は倒れ、障子も破れている。
そして、紅葉の君が座っていただろう敷物が部屋の端の方まで飛ばされているのを見て血の気が引いた。
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