平安物語=短編集=【完】
「はい、実はその紅葉の君の事で…」
そこまで言って口を閉ざした。
大君は、あの紅葉の君の部屋が荒れた事情を知っているのだろうか。
もし知らないのに話してしまえば、紅葉の君の恥になるのではないか。
そう考えて黙っていると、大君が
「紅葉の君なら、今ちょうどこちらでお喋りしていたところです。
御心配をおかけ致しました。
もうすぐ、あちらへお帰ししましょう。」
と言った。
無難な完璧な答だ。
「それを伺って安堵致しました。
では私はあちらでお待ち致しましょう。」
そう言って、早々に席を立った。
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