平安物語=短編集=【完】



「宮様…?」

「何です?」

「叶う事ならば、あの紅葉の屋敷に帰りとうございます。」

そう言うと、宮様は私の体を離して私の目をじっとご覧になりました。

大君が、これ以上の辱めを受ける前に、宮様におすがりしてこのお屋敷を出るべきだとおっしゃったのです。


そしてしばらくの沈黙の後、

「分かりました。
父宮には私からお話しましょう。
あなたの思い出のあの屋敷で、二人で暮らしたいと。」

とおっしゃってくださいました。


「宮様も一緒に…?」

「当然です。
私の、帰る場所にしたい。」


…とっても嬉しい。


私はもう一度、強く宮様の背に腕を回しました。



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