平安物語=短編集=【完】
そして宮様が十歳の時、十四歳の殿が元服なさいました。
儀式を済ませて殿が帝にご挨拶にいらした時、簀に二人の兄宮と太政大臣、そして御簾の中には帝・中宮・姫宮がいらしたのでした。
そんな場で、帝が
「そなたに祝を授けよう。
私の大切な、この姫宮はどうか。」
と突然仰せになったのです。
これには誰もが驚きましたが、その場では何も申せません。
宮様もお顔を赤くなさって父帝の御顔をご覧になりました。
殿も驚いて何もおっしゃれずにいたとこに、太政大臣が
「本当に有り難くもったいないお話ですが、大御酒に酔われての御言葉では心許のうございますな。」
と、冗談に紛らわせてその場を取り繕おうとなさいました。
女房方もほっと笑った時、
「もしお許し頂けるのならば、私には願ってもないお話でございます。」
と、凛とした声が響きました。
全く、成人したてとは思えないような御様子でした。
帝は満足そうに頷かれ、宮様はお顔を真っ赤にして俯いておしまいになり、そして中宮様は、見たこともないような難しいお顔をなさっていました。