平安物語=短編集=【完】



儀式が終わり、宮様と院は久しぶりに兄妹の対面を果たされました。


「久しいですね、妹(イモ)。」

「本当に。
お元気そうで何よりですわ、兄上。」

高貴なお二人の微笑みあう御様子は、とても有り難いものに思われ絵にでも残しておきたいようでした。


しばらく世間話や亡き女御様のお話などなさった後で、院が切り出されました。

「実は登華殿女御の姫宮の事なのですが…
今こちらに引き取らせてもらっていますが、三の宮の成人を期に私も出家してしまおうと考えているのです。
そこで真に勝手ではあるのですが、またそちらで養育してはもらえないかと。」

「まあ、そのような事を。
兄上までが御出家あそばして、私ばかりにいつまで現世に留まれと仰せになるのでしょう。
私こそ、三の宮と女一の宮が成人なさった今こそ出家してしまいたいと考えておりますのに…」

なんとも物悲しい応酬が続いた末、宮様が提案なさいました。

「それでは、中宮にお願いしてはいかがでしょう…。
皇后様には二人御子がいらっしゃいますが中宮には東宮お一人ですし、中宮のお人柄の素晴らしさは私も存じ上げております。
御身分も申し分ございませんし、帝も、異腹の妹宮ですから大切にしてくださるかと存じます。」

「実は私も、少しはそれも考えていたのです。
そうですね…貴女もそれが良いと考えるのなら心強い。
帝を通して打診してみましょう。」


私はこのお話を伺っていて、心底驚きました。

今まで何事も殿の顔色を窺って決めていらした宮様が、殿に何の相談も無くこんな大事な事をお決めになったのです。

この変化は実兄と一緒にいらっしゃるからなのか…それとも宮様の御心に何らかの変化があったのか。

もしかすると御出家もそう遠くはないかもしれないと直感いたしました。



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