平安物語=短編集=【完】
しばらくすると、音が止んでしまった。
もう休んでしまうのかと焦ったが、どうやらその場にいる気配はする。
その時不意に、一迅の突風が吹いた。
神風としか思えなかった。
その風が御簾を上手く吹き上げて、座っていた人の姿が顕わになったのだ。
驚いた。
真っ白な肌に涼しげな目、スッと通った鼻筋に花びらのような可愛らしい赤い唇、額つきや髪のかかり具合まで完璧な、絶世の美女だった。
あちらも私の存在に気づいて驚いたように目を見開き奥に逃げ込んでしまったが、その衣裳が高貴な女のものである事に気づいてしまった。
この屋敷の姫君…
東宮に入内予定の…
それでも私は、恋に落ちてしまったのだ。