平安物語=短編集=【完】
しかしある日、突然方違えの為に右大臣様が我が家にいらしたのです。
本当に急な事で、ろくなおもてなしの準備もできず情けなく恥ずかしくて涙が出ました。
少将様も駆けつけてお手伝い下さいましたが、右大臣様は
「いや、本当に気を遣ってくれなくて結構。
急に来て悪かったね。
寝る部屋だけ貸して頂ければ十分ですよ。」
と仰って鷹揚になさっていました。
その、垢ぬけた御立派な御様子。
このような御方から御手紙を頂いていたのだと思うと、何人目かの愛人でも良いかという気にもなってしまいそうになります。
しかしその晩は、色めいた事は何もなさらず帰ってゆかれました。