平安物語=短編集=【完】
そんなある日、大臣が思いも寄らない事をおっしゃいました。
「私の屋敷にいらっしゃいませんか。
貴女を北の方としてお迎えしたいのです。
私の隣で、私を支えては下さいませんか。」
「え…」
喜びの余り言葉も出ず、二つ返事でお受けしようと思いました。
しかし、
「でも…私なんぞより御身分のお確かなお通い所が、お有りなのではございませんか?
私のように親も無い女を北の方としてお取りになったら、その方々がどう思われますか…」
今まで、差し出がましいと思われる事を恐れてただの一度も口に出した事の無かった、他の女性の存在。
自分で言っていながら、胸がえぐられるように痛みました。