平安物語=短編集=【完】
しかし大臣はきょとんとなさって、暫しあってアハハとお笑いになります。
「いやはや、まさか貴女がそんな事をお考えだったとは。」
そうおっしゃって、嬉しそうに微笑まれました。
「私は仮にも右大臣ですよ?
貴女を五日に一度はお訪ねしているのに、この重い身分で、余所にまで行けるとお思いになりますか?」
「あ……」
「貴女と出会い貴女を愛してから、他の所とは御縁は無いのですよ。」
ハッとして、涙がボロボロ零れました。
まさか大臣ほどのお方が、そんな風に思って下さっていたなんて。
大臣はそんな私を優しく抱きしめて、
「これ程愛しく大切に思っていたのに、伝わっていなかったなんてね。」
「私の屋敷に、来て下さいますか…?」
とおっしゃいました。
「はい…っ」
こんな幸せは、二度と無いのではないでしょうか――