平安物語=短編集=【完】
その次にいらした時、大臣は私の乳母を召して、私を引っ越させるからそのつもりで支度するようにと仰せ付けました。
すると乳母は驚いた顔をして、
「それは本当に喜ばしい事でございますが、御胤が安定する翌々月までお引越はお待ちになった方が良いかと存じます。」
と言ってしまったのです。
「胤…?」
当然訝しげな表情をなさる大臣を見て乳母は、「まさか、まだ…?」と焦ったように言いました。
思いがけない展開が恥ずかしくて顔を背けていると、大臣が「えっ」と声を上げて、
「まさか、椿の君!
懐妊しているのですか…?」
とおっしゃいました。