平安物語=短編集=【完】
「どうなさいました。
あまり嬉しそうな顔をなさいませんね。
車に酔っておしまいになりましたか?」
「いえ…
あまりにご立派なお屋敷に、圧倒されてしまいまして…」
そう申し上げると、大臣は私の気持ちを察しておしまいになったようでした。
大臣は、近くに居た従者から何かを受け取られて、
「恋ひ渡る椿を今し手に入れり
千歳も側に折りて愛でなむ
(ずっと得たいと思っていた、椿のような貴女を、やっと今手に入れました。
これから先千年でも、私のすぐ隣において愛していきましょう。)
隣にいてくだされば、それで良いのです。
椿の君…いや、椿の上。」
そうおっしゃって、椿の枝をくださいました。
その枝には、真っ赤でつやつやと美しい、大輪の花が咲き誇っていました。