平安物語=短編集=【完】
「この織物なんて、あなたによく似合いそうですね。」
そう言って男君が手に取ったのは、桜色の高価な織物です。
「そんな若々しいものは、もう…
それは姫にと思いまして。」
「またそうやって。
あなただって、こんなに若々しいのに。」
男君がじっと女君を睨むように見つめると、「尚仁様…」と言って女君は頬を赤らめて目を泳がせます。
「これとこれとこれは、あなたの。
良いですね?」
先ほど姫宮にと取り分けた山から三つほど取り上げて仰いますと、
「――え。
それは、絶対姫に似合いますのに…」
と反論して、織物をちょっと掴みました。
すると男君がその手を引いて胸に抱きとめ、甘い口づけを降らせます。
驚いたように目を見開いた女君もすぐに目を閉じて受け入れ、艶にしなだれがかって、いかにも睦まじく甘えていらっしゃるのでした。