長閑【短編集】
「…潤。」
「なぁに?」
「潤のパパはー‥」
私が口を開きかけた時。
突然強い風が吹きぬけた。
同時に三匹の鯉のぼりが空を舞う。
「わぁ!!」
潤が嬉しそうにそれを見つめている中、
私の目は三匹の鯉のぼりの中で一番大きくて力強く泳ぐそれに奪われていた。
「…あ、ママ。さっきなにかいわなかった?」
「え?」
私は再び黒の鯉のぼりを見てから答えた。
「ううん。何でもないよ。」
そう言ってごまかす。
さっき風が吹いたときに
“もう少し待ってあげよう。”
と囁くあなたの声が聞こえた気がしたから。
私はこの子が事実を受け止めれる年齢まで待ってあげなきゃ。
そして、私達はまた空を見上げた。
その上には依然三匹の鯉のぼりが泳いでいる。
その中で一番目立つ黒い大きなあなたは、
悠々と空を舞っていた。
鯉のぼり end.