罪線シンドローム
……私はその背中に、それ以上を求める事が出来なかった。


お互い向かいあっている訳でもないのに、私は目の遣り場に困り、自分の手首に視線を向ける。


これは癖だ。


そこにある、数々の傷を見ていると、いつも誰かが心配そうに声を掛けて来る。


こうしていれば、私が心の声を振り絞らなくても、彼の方から声を掛けてくれる。


そう、思っていたのに……でも実際は違った。


その姿を見た訳でもないのに、足を一歩半程前に進めた。


私との距離を広げたのだ。


「淋しいの」


ついに零れ落ちた月の雫に、彼は相槌を打つ事はない。


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