花火
時というものは、振り返ればアッという間に過ぎていく。それは一年、一か月という単位でなくとも、一週間、一日という短い単位であっても同じだ。
『明日は、一時に浅草駅で待ち合わせでいいかな?』
一週間の健闘を称える様に、ビールを喉に滑らせながらメールを送った。時計は九時を少し周ったところだ、いつもなら直ぐに返事が返ってくる時間だ。首を締めつけるネクタイを弛め、テレビを付け、残りのビールを喉に流し込む。すると予想通り、すぐに携帯電話が点滅しだした。
『仕事お疲れさま。一時に浅草駅ね?分かった。たっくんお勧めの場所とかあるの?』
『隅田川の花火大会なら任せて。明日は俺が、絶景ポイントに案内するよ』
隅田川の花火大会なら去年も行っているので、自信がある。花火は桜橋と言問橋の間で打ち上げられる第一会場と、駒形橋と既橋の間で打ち上げられる第二会場の、二か所から打ち上げられる。第一会場の方が規模が大きい様に思うが、実際は第二会場の方が千発近く発数が多い。だが第一会場の方がストーリー性にたけていて、見ていて飽きないので、明日も第一会場で見ようと決めていた。
『じゃ、明日楽しみにしてるね。金曜日だからって、あまり遅くまで起きてると寝坊しちゅうぞ』
本来ならば休みの前の最高の一時をゆっくりと過ごしていたいが、平日通りの時間には眠ろう。明日の夜は長く、甘美な真夏の夜になるのだから。
 
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