花火
『待たせちゃってごめんね。今まで寝ながら様子を見てたんだけど、今日はやっぱ無理みたい、ごめんね』
今日この何時間かの間で、溜息をついた回数と、春香がごめんねと思った回数、どっちらが多いいだろう。なぜかそんなどうでもいいことが頭をよぎった。全身から力が抜けていくのを感じながら、今日この後の予定を思ってしまった。今気にすべきことは一つなのに、春香の体調を一番に気に留めるべきなのに、そう出来なかった自分に気付くと、急に情けなくなった。せめて春香が、心置きなく休める様な返事を送ろう。
『体調大丈夫?花火のことは気にしなくていいからね。また来年があるしさ。そうだ、なんなら看病しにいこうか?』
看病というのはなかなかの名案だと思った。これなら花火は無理でも、一緒にいることは出来る。春香を安心させ様と必死に考えていたら、自然とやましい思いは消え去り、優しい気持ちになれた。意気揚揚と準備の最終チェックをしていると、メールの返事は来た。
『たっくん、ありがと。気持ちは凄い嬉しいんだけど、うつしちゃうと悪いし、今日は一人で休むことにします。ごめんね』
今日は空回りばかりの一日だ。ほんの数時間前までは、晴れ渡った真夏の空気を心地よく感じたが、今はじめじめと体に纏わりつく様で、鬱陶しく思った。
『そっか、じゃゆっくり休んでね。体調良くなったらメールしてね』
その数分後に『ありがと。ごめんね』そう返事が来て以来、その日携帯電話が鳴ることはなかった。
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