花火
実家で過ごす休暇はゆっくりと、最近の疲れた心を癒すのには十分な時間をかけて流れ、そして過ぎ去って行った。
「もう少しゆっくりしていけないんかい?」
迎える時はさり気無いが、いざ帰る時になると、妙に湿った空気が流れた。
「明日からまた仕事だし、切符も買ってあるしさ。また正月にでもゆっくりと帰ってくるよ」
努めて明るく振舞った。
「じゃ、お正月には彼女も連れてきてね」
莉那はわざとらしく、大きな声を出して言った。
「調子に乗るな」
不思議そうな顔をしている母親を尻目に、莉那の肩を小突くと、一人改札に向かい歩きだした。幾ばくかの思いを故郷に残し、東京への帰路に着くために。
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