花火
「帰って、帰って。もう二度と現れないで」
その場にしゃがみこみ、必死に嗚咽を噛み殺していた。
「何があったの?」
ようやくの思いで言葉を発した。だが彼女は俯き、何も答えなかった。
「何があったんだよ!?」
吐き捨てる様に言い放った。何だこれは?何をやっているんだ俺は?頭の中の妙に冷静で、客観的な部分がそう罵倒した。返事はなかった。遠くから船の汽笛の音が聞こえきた。風が吹いた。船が揺れた。髪がなびいた。確かに時間は流れていた。心臓の音が聞こえた。僕の中でも時は流れていた。
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