花火
梅ヶ丘の駅に着いたのは、六時を過ぎた頃だった。辺りはすでに薄暗くなっていた。日が短くなったな。夢の様な夏の面影は、そこには微塵も感じられなかった。そう思うと、辺りの景色が徐々にぼやけてきた。雨が降ればいいのに。小雨ではなく、土砂降りの大雨が。全ての音を遮断する様な大きな音をたてて、この世の全てを濡らしてしまえばいい。人々はみな一斉に周りの建物に逃げ隠れ、自分だけがその大雨の中立ちすくむ。大声をあげて崩れ落ち、涙も雨もごちゃまぜになって、天を仰ぎ大きな声で泣き叫ぶ。そんなことが出来たら、どれだけ楽になれるだろう。理性もプライドも流れ去って、本能のままに悲しみにくれられたら、この身に起きた悲劇を憐れむことが出来たら。
< 251 / 427 >

この作品をシェア

pagetop