花火
駅までの道を歩いた。四方を畑に囲まれ、右も左も分からなくなる様な一本道を、たまに地図をみながら歩いた。一体どれ程歩いて駅にたどり着いたのだろう、あまり覚えていなかった。多分一時間くらいだったと思う。頭の中は思考を完全に拒否していた。考えることを辞めていた。ただ本能で家までの道を辿っていた。車窓からの眺めをただ見つめていた。何も写っていなかったが、ただ一点を見つめていた。断続的に押し寄せる悲しみの波に、理性を失い泣き叫びそうになった。その度に、心を厚い壁が囲んでいった。そして下界からの悲しみをはねのけていった。その心の壁が五層にも十層にも重なった頃、梅ヶ丘の駅に辿りついた。