花火
己の恐怖に打ち勝ち、愛する人を傷つけることを恐れた。それなのに、僕は小さな傷にも直面できず、逃げることしか出来なかった。丁度目の前に現れた温もりに、その心を預けることしか出来なかった。足元に転がる焼酎の瓶を手に取ると、そのまま体に流し込んだ。今でも逃げようとしている。逃げることしか出来なかった。事態を把握し、最善を尽くそうとも、自分の心と向き合うこともなく、逃げて行った。熱い刺激が喉を過ぎ食道を焼き、胃に留まった。情けないと分かりながらも、瓶がからになるまで飲み続けた。疲れと酔いから激しい睡魔に襲われ、これは夢だ、そう思いながら、浅い眠りに沈んで行った。
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