花火

再開

 目覚めると、まだ辺りは暗闇に包まれていた。枕もとの時計を引き寄せ、時間を確かめると、夜中の三時を過ぎた頃だった。どうやら、いつのまにか眠ってしまった様だ。胃の中と、頭の中心に居座った酔いが、正常な思考回路を妨げていた。それでも今日、すでに昨日か、に起こったことを思い返した。
 住人を失った平井のマンション、流れ行く車窓からの風景、ねずみ男の様なタクシー運転手、「みつかるといいね」と激励をくれた吉田違いの中年女性、海と田畑に挟まれた、どこまでも続きそうな一本道、そして変わり果てた春香の姿を。
 知らなければ良かったことばかりだ、そうすればパンドラの様にはならずに済んだのに。だが、一度開けてしまった箱の蓋は、二度と閉じることはなかった。そしてその箱の底に、希望は残っていなかった。これからどうすればいいのだろう、いや、どうしたいのだろうか。
< 302 / 427 >

この作品をシェア

pagetop