花火
「もしもし。今日は仕事早く終わったの?」
聞きなれた声、だがその声は、私でない誰かに向けられていた。誰と勘違いしているの?受話器の向こうからは、何度も返事を促す言葉が聞こえてきた。
「聞こえるよ。元気そうでよかった」
精一杯の皮肉を込めたつもりだったのに、感情を一片も表すことができなかった。一瞬の間があり、躊躇う様な声が聞こえてきた。
「春香…なのか?」
名前を呼ばれただけで、胸が一杯になり、何を言っていいのか分からなくなった。
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