花火
そう言いながら、どこか虚空を見つめていた。そうでもしないと、何かの枷が、涙腺を引き締めている何かが、音もなく外れそうだった。
「大丈夫。後何ヶ月か、うぅん、後何日もしたら、こんなことも言えなくなっちゃう。その前に、その前に最後に、たっくんに…」
いつの間にかコオロギの鳴く声は止んでいた。そこには暗闇と、静寂しかなかった。
「わかった」
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